3大感染症を効果的に減らす/産経新聞オピニオン(2016年1月11日)

最終更新: 2019年8月30日

3大感染症を効果的に減らす

<青い海に囲まれた世界有数のリゾート地、 フィリピン・セブ島。多くの日本人が癒やしを求めて訪れるこの島を昨年10月、視察した。 目的地は覚醒剤の回し打ちによってHIV(エイズウイルス)やC型肝炎の感染が広がるスラム街だった>

 感染を防止するにはどうすればいいと思いますか? 覚醒剤の使用は犯罪。でも、彼らが薬 物に走る背景には貧困や家族問題、失業など根深い問題があります。 薬物は依存性が高く、刑務所に入れても、治療も更生もできません。

私たちは中毒者のカウンセリングや更生プログラムを進めるとともに、回し打ちを防ぐため新しい注射針の提供を支援していました。 薬物は手放せなくても、針が新しければ少なくとも感染は防げる。しかし、政府は覚醒剤が広がるとして針の提供を禁止した。それでも、彼らは薬をやめないでしょう。再び回し打ちが広がるだけです。薬物依存に加え病気を抱え、彼らにどうやって生きろというのでしょう。

<エイズ、結核、マラリアの3大感染症を減 らすため、どのように資金を使うか。 それを考え実行するのが「世界エイズ・結核・マラリア 対策基金(グローバルファンド=GF)」の戦略・投資・効果局長の役目だ。昨年2月7日には、増資準備会合がアジア初となる東京で開かれ、平成29(2017)年からの3年間に計130億ドルの拠出を各国に呼びかけた>

 GFは12 (2000)年のG8九州・沖縄サ ミットで、議長国の日本が感染症対策を主要課題として取り上げたことがきっかけで、低中所 得国の3大感染症対策に資金を提供する機関 して設立されました。1年半という異例の速さで設立できたのは、パンデミック(世界的流行) という緊急事態を抑えなければならない世界の切実な思いを反映したからです。国連の中にはつくらず、民間を含めたドナー、現地政府、当事 者組織などをつなぐ役割を期待されています。

 東京での増資準備会合には米マイクロソフト創業者、ビル・ゲイツ氏や世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン事務局長らがそろいました。GFの生みの親である日本への期待 の表れだと思います。

<テロ対策が各国の優先課題になる中、3大感染症のためにお金を集めるのは厳しい>

 減ってきたと思って手を緩めるとまた流行するのが感染症です。増資会合ではサービスが届いていない見過ごされている人々がいる、と一 層の努力を求める声も出ました。現場を見てきた私には、その声がどれほど必死な叫びなのかが分かります。その声をさまざまなドナーに届け増資を成功させ、限られたお金の活用をより効率的、効果的にしていくことが私の役割。今年もやるぞという思いです。

 GFは現場で直接、感染症対策を行うことはありません。資金を集め、戦略的に配分、活用し、より大きなスケールで市民団体や当事者組織とも協働して国全体の感染症流行を抑えるメカニズムをつくります。でもね、ぼくは基本的 に現場が好きなので、現場で働いていたいのが本音でもあるんです。 (聞き手 道丸摩耶)

國井修

昭和37年10月20日、栃木県大田原市生まれ。自治医大在学中、インドに留学し伝統医学を学ぶ。ハーバード大公衆衛生大学院留学を経て、国立国際医療センター、東京大講師、外務省課長補佐、長崎大教授などを歴任。平成18年から国連児童基金(ユニセフ)でニューヨーク本部、ミャンマー、ソマリアなどに赴任。25年3月から「世界エイズ・結核・マラリア対策基金 (グローバルファンド)」の戦略・投資・効果局長。著書に「国家救援医」(角川書店)。




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